長屋の今月の少女趣味こうなあ
『いにしへの日は』 三好達治
いにしへの日はなつかしや ※いにしへ=いにしえ 昔
すがの根のながき春日を ※すが=すげのこと
野にいでてげんげつませし ※げんげれんげ草
ははそはの母もその子も ※ははそは=母にかかる枕詞
そこばくの夢をゆめみし ※そこばく=いくらか
人の世の暮るるにはやく
もろともにけふの日はかく ※けふ=今日
つつましく膝をならべて
あともなき夢のうつつを
うつうつとかたるにあかぬ
春の日をひと日旅ゆき
ゆくりなき汽車のまどべゆ
そこここにもゆるげんげ田
くれなゐの色をあはれと ※紅の色をあわれと
眼にむかへることにはいへど
もろともにいざおりたちて
その花をつままくときは ※つままく=摘む
とことはにすぎさりにけり ※とことはに=永久に
ははそはのははもそのこも
はるののにあそぶあそびを
ふたたびはせず
虎さん なんか今月の詩は、えらい古めかしいでんな。
せやけど先月の方丈記よりましやけど・・・・。
熊さん 旧仮名で書かれているからな、
ご隠居 春の日に母親と子供が膝を並べて汽車に乗って、車窓から、レンゲ畑を眺めている。昔、母と子は野に出てレンゲを摘んだものだが、今は母も老い、子も大きくなって、野に降り立ちてレンゲを摘むこともない。そんな夢のような日は永遠に過ぎ去ったのだ。というようなことやな。
熊さん そういや、わしら子供と一緒に公園で遊んでいたら、よく人に今が一番いい時やでって、よう言われますわ。わしらにしたら、がきは小さいし、うるさいし、何がええ時やと思いまっけどな。
ご隠居 そうやな、わしも子供が小さい時よくそう言われたなあ。今から思うと、ほんまにそうやと思うわ。その時はよう思わんだけどな。
熊さん ははそはの母もその子も
もろともにいざおりたちて
その花をつままくときは
とことはにすぎさりにけりということでんな。
ご隠居 そうや、この詩はそんなわしの気持ちをうまく代弁してくれているように思うのや。
虎さん ご隠居、こどもとレンゲなんか摘みにいったことあるんでっか。いんねんを積むのはとくいみたいでっけど・・・・・。